短歌:笑い9
☆いらっしゃいませって寝言でいいながら笑っていたよ こちらへどうぞ(小野伊都子)
何年か前、妹がAfternoonTeaのカフェに勤めていた。
駅前の人気店舗だったため、とても忙しくて
アルバイトを始めてしばらくは、本当にいっぱいいっぱいだったらしい。
毎日、疲れきった顔で帰ってきては、
リビングでテレビを見ながら眠ってしまうこともしょっちゅうだった。
「友達と別の店でお茶してても、店の人がいらっしゃいませって言うと
ほとんど反射的に『いらっしゃいませ~』って口に出そうになるんだよ」
妹はそう言って、困った顔で笑った。
ちょうど、娘が生まれたばかりで実家に帰っていた私は、
ある真夜中に、妹の「いらっしゃいませ~」を聞くことになった。
ぐっすりと眠っていた妹が、突然大声で叫んだのだ。
「いらっしゃいませ~」
そのあまりに大きな声にびっくりしつつ、微笑まずにはいられなかった。
「お待たせしました~。こちら、チキン〇〇です」
その後に飛び出したメニュー名に、笑いをこらえつつ、妹の寝顔を覗きこんだら、
生まれたばかりの娘に、なんだかそっくりで、また笑ってしまった。可愛いやつだ。
翌朝、妹に寝言のことを言うと、ショックを隠しきれない顔をしてつぶやいた。
「あ~。今、メニュー覚えるのに必死だからな~」
昔から、大きな声ではっきりと、寝言を言う子だったよ、君は。
いつも、楽しませてくれて、ありがとう。
でも、結婚したらきっと、ダンナさんはびっくりするだろうな。
決して返事はしちゃいけないという、寝言。
その夢の先には、どんな笑顔が広がっているんだろう。



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