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July 23, 2004

緑のひととき。

ずっと書けなかったけれど、先週末は、京都にいた。

7月17日の土曜日は、祖父の命日。
今年は十七回忌にあたるので、久々に出かけたのだ。

前日の16日は、カイの8歳の誕生日。
しかも、ヒナとコトの保育園の夏祭りもあって、バタバタしていたのだけれど
翌朝、弟の車に母と妹と、こどもたち3人とで、大阪の祖母の家を目指して出発。
ダーリンは、仕事の都合で、今回は行けなくて残念。

法事は11時からだったので、早めに出なくてはならなかった。
しかも三連休。遅れるわけには行かないから、朝6時45分頃には名古屋を出て、
前日に買っておいたミニクロワッサンなどを、車中で食べながら行く。

とても眠たいはずなのに、こどもたちは大はしゃぎ。
大阪の枚方にある祖母の家(叔父と同居している)には、
カイが2歳半すぎで、ヒナがお腹にいた頃に行ったきりだった。

祖母は、私たちの住む名古屋に何度か来ているので、
コトにも会ったことはあるけれど、今回はお泊りという特別な出来事が
こどもたちをわくわくさせているのが分かる。たった1泊でも、特別な1日なのだ。

何とか予定よりも早く高速を抜けて、祖母の家に到着。
叔母一家や、何年も会っていなかった従弟一家も、次々とやってくる。
はりきっていた祖母も、忙しそうに仕度をしている。

カイ、ヒナ、コトも、写真でしか見たことのなかった、従弟たちのこどもと遊ぶ。
小さな頃の自分たちを見ているようで、何だかとっても、不思議な気分。

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夏休みのたびに、私は母や弟たちといっしょに、
祖母の家(その頃は祖父の家と言っていた)へ泊まっていた。
幼稚園の先生だった母は、やることはたくさんあるものの、夏休みがあったので、
いつも夏休みになると、何週間も大阪に泊まりにいくのが、私たちの過ごし方だった。

新幹線に乗って京都駅まで行き、京阪電鉄などを乗り継いで、「おじいちゃんの家」へ。
ドアを開けて「こんにちはー」と大きな声で言うと、
マルチーズのロンとナナが、駆け寄ってきた。
「いらっしゃい。暑かったでしょう」という祖母。
いつもは厳しい顔の祖父も、微笑みながら迎えてくれた。

応接間に通されて、二階のお仏壇にお参りをすると、本格的な夏休みのはじまりだ。
これからここで、ひと夏を過ごすのだと思うと、いつもながらわくわくしてしまう。

家とは違う、におい。家とは違う、ごはん。家とは違う、景色。
おじいちゃんの好物のらっきょう。MILD SEVEN。オートミール。
おばあちゃんの作るアロエ入りのバナナジュース。ジャージャー麺。ちらし寿司。
犬の散歩。雑貨屋さんで買ってもらった、せっけん紙。
草の生えた空き地。星座を見つけた夜空。

そして何より、従弟たちといっしょに遊べる楽しみ。
私は、従兄妹たちの中で、いちばん年上だったのだけれど、
ちょっとしたことでもみんなで集まっては大騒ぎして、笑ってばかりいた気がする。

祖父は、とても厳しくて、でも私たち孫にはとても優しくて、
初孫だった私は、いつもいつも、たっぷりと愛情を注いでもらっていた。

私が知っている草や花、木の名前なんかは、たいていは祖父に教わった。
いっしょに近くの公園を散歩している時に、決まって聞かれるのだ。
「これは何ていうか、知ってる?」

夾竹桃。さるすべり。芙蓉。
そんな夏の代名詞ともいえる花々を愛でることも、祖父に教わった。
今では私が、こどもたちに「これはね・・・」と、季節の花や木の名前を教えている。

法事を終えると、親戚一同で移動して、梅の花で食事をする。
豆腐や湯葉が、色々な形で出されて、どれもおいしかった。
ただ、従弟のこどものいっちゃんが、石焼の料理の上に尻餅をついてしまい、
少しだけ足を火傷してしまったのは残念なハプニングだったけれど。

その日は、京都の東山閣に泊まる。
5人部屋を5部屋取って、まるで修学旅行みたいだった。
妹のちこと、こどもたちとで泊まった私たちの部屋は、窓の外に井戸があってびっくり。
内装も、桜の木を活かした造りで、古都のイメージたっぷりだった。

カイは、叔父にお風呂に連れて行ってもらって、大はしゃぎ。
ヒナは、従弟のこども・いっちゃんと遊ぶのに夢中。
コトは、とにかくみんなに可愛がってもらって、ご満悦。

翌日には、円山公園を通り、祖父の宗派である真宗大谷派の東本願寺へお参りする。
さすがに京都の夏は暑くて、途中で休憩しながら、みんなで長い石段を登り、お参り。
コトは従弟が貸してくれたベビーカーのおかげで、ひとりらくちん。でも、暑さにぐったり。

仕事のために、一足先に帰る妹を、従弟が送ってくれることになり、そこで別れる。
従弟の奥さんは、妊娠7ヶ月。秋には、可愛いBabyが生まれるのが、楽しみ。

少し観光でも・・・と、青蓮院へ足を延ばす。
青空に手を伸ばすような、大楠が見事で、見上げてしまう。
しんと静まり返った庭園は、なんとも美しくて、緑の風が吹いている。
むせ返るような暑さの中、そこだけが涼しげで、穏やかだ。

JR東海の「そうだ、京都いこう。」のポスターにも登場する
この庭園で、緑のひとときを楽しむ。
心にも、身体にも、心地よい風が吹いてくる。
そして、思い出の中の私たちにも、同じように。

宸殿には、おみくじの創始者といわれる元三大師の坐像があって、
「効力のあるおみくじの引き方」の注意書きにしたがって、
お経と唱えながら、カイとヒナ、私の三人はひいてみた。

カイは、大吉。ヒナは、吉。私は、末吉。
あせらずに、じっくりといきなさい。
そう教えられたような気がした。

緑のひとときを味わった後は、近くの店で食事。
とても混んでいて、たっぷり待たされたけれど、うどんがおいしかった。
「絶対においしいさかいな、待っとってな」と、
京女らしいおかみさんの言葉に、ちょっと笑ってしまう。

店を出てすぐに、雨がぽつり。
忘れ物をしたカイのために、弟・シンがホテルまで車を走らせてくれる。
それを待つ間、もう一度、青蓮院へ戻り、自販機コーナーの屋根で、雨宿り。

どしゃ降りの京都を後にして、名古屋へ向かう。
帰りは、祖母のところに泊まる母や叔母、従妹のチー、チカと別れて、
代わりに叔父とカオリがいっしょに車に乗っていく。

辿り着いた我が家には、ダーリンと私の大学時代の先輩である
ハリー(と私は秘かに呼んでいる)がいて、
ふたりして、音楽を聴きながら酔っ払っていた。
おもてなしもできずに、いろんな話をして、ハリーを見送ると、疲れがどっと出た。

でも、あの緑のひとときを思い出すと、心がほっとする。

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大学に通い始めたばかりの頃、祖父が入院した。
軽い脳梗塞で、仕事に行く途中で車を自損してしまったということだった。
とても驚いたけれど、幸い言語障害も四肢障害もなかったので、安心していた。

だから、5月に父や母といっしょに大阪へ祖父を見舞った時にも、
手紙を持参して「早く元気になってね。また夏休みには遊びに来るね」と伝えた。
少し青白い顔色の祖父は、ベッドから起き上がる時によろめいたけれど、
「フランス語はどうだ?」「先生は優しい?」と、にこやかに尋ねてくれていた。

7月のあの晩、電話が鳴って、祖父が亡くなったことを知らされた。
私は、どうしようもないくらい悲しくて、ずっと泣き続けていた。
祖父の元へ向かう、電車でも。
冷たくなってしまった、祖父の前でも。
お葬式でも、ずっと。

私には知らされていなかったけれど、祖父は膵臓がんだったそうだ。
きっと苦しかったのに、私にはそんな表情は見せずに、
花の名前を教えるように、優しく「がんばりなさい」と言ってくれた。

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祖父はもう、いない。そして、父も。
けれどもこうして、ふたりがくれたものが、私の手元にはある。

暑さにへこたれそうな時も、
寒さに震える時も、
涙にくれる日も、
微笑みに温かくなる日も。

すっと目の前に広がる、一本の道。

そこには、緑の風と、変わらない思い出がある。

そこでは、冷房なんていらない。
蝉しぐれも、心地よく聞こえる。
太陽を、まぶしく見上げながら、歩ける。

そんな、緑のひととき。
忘れずにいたい。

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Comments

「緑のひととき」
久し振りにいい文章を読みました。
私も母方の祖母に思いがいっぱいあります。

小野様の感性を素晴らしく思います。
その一言です。

では。

Posted by: うさお | July 25, 2004 at 09:09 PM

うさおさん、こんな長い文章を読んでくれて
それだけでとても嬉しく思います。

お祖母様の思い出、大切になさってるのでしょうね。
夏は特に、そんなことを思い出す季節です。

まだ暑い日が続きますが、
どうぞ、ご自愛なさってくださいね。

Posted by: 小野伊都子 | July 26, 2004 at 11:36 AM

ご無沙汰してますm(__)m

伊都子さんの文を読んで、私も何年か前に亡くなった祖母を思い出しました。
そして、先日亡くなった相棒の祖父を・・・

この夏は暑くて、思い出までがとけだしてきますよね

とてもとても素敵な思い出をありがとうございます
トラックバック させてもらいました(^_^)V

Posted by: 海の | July 26, 2004 at 08:00 PM

海のさま。

ゆらめく陽炎のように、蜃気楼のように、
思い出は浮かんでは消えていくのですよね。

お祖母さま、ご主人のお祖父さまに
たくさんの思い出がおありなのですね。

「思い出すことが、いちばんの供養」だと、
お坊様の言葉を思い出しました。そうですよね。
きっとみなさん、空の上で微笑まれていることでしょう。

すてきな歌にトラックバックしていただいて、
とても嬉しく思っています。ありがとうございます。

Posted by: 小野伊都子 | July 26, 2004 at 10:02 PM

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